2010年7月5日月曜日

弁護士という仕事

貸与制という制度があったから、今になって裕福な家庭出身者しか弁護士になれないって思えてしまうってこともあると思う。
冷静になって考えると、医者だってほとんどが金持ちの家出身だしさ。もちろんそうでない家の人もいるだろうけど…。
結局、人の命や人生を扱う仕事なんだから、一人前になるまでにはお金がかかっても仕方ないとは思います。


◆岐路に立つ法曹養成制度 人材確保に給費制維持を(7月5日山陰中央新報)
島根県弁護士会会長 中村寿夫
司法制度改革の中で法科大学院が創設されてから6年、新たな法曹養成制度は、成果をあげる一方、さまざまな課題、問題が指摘されている。 まず、かつては年間500人程度であった司法試験合格者を法科大学院設置後、段階的に増員し、ことしは3千人程度にすることが閣議決定されていた。しかし、弁護士に対する需要が増員に追いつかず、新人弁護士の就職難が表面化する中で、増員はペースダウンを余儀なくされ、昨年の新司法試験の合格者は2043人、ことしの合格者も同程度にとどまるのではないかといわれている。 法科大学院が設置される際には、修了生の7割か8割は法曹になれるという触れ込みであったが、今や合格率は2割程度にまで下がっている。人材活用および教育の両面で大きな国家的、社会的損失が生じていることになる。 また、法科大学院で学ぶことに伴う経済的負担も半端ではない。日弁連が昨年行ったアンケート調査の結果では、司法修習生の約53%が奨学金や教育ローンなどの負債を抱えており、その平均額は約320万円、最高で1200万円になることが明らかになった。 このような中で、本年度の合格者から従来、修習生に支給されていた給与が廃止されようとしている。これは、2004年に裁判所法が改正されたことに伴うもので、給与の支給に代えて、必要な者に月額23万円の修習資金が貸与されることになっている。給費制が廃止される理由は、法曹人口の大幅拡大に伴う財政上の問題である。司法制度改革の中で弁護士に対する社会的需要が飛躍的に増大することも前提とされていた。 今、給費制が廃止されようとしている中で、現状をあらためて振り返ってみると、年間3千人の合格者の確保が実現していないだけではなく、2千人程度の合格者に対してさえ法曹としての活動の場を十分提供できていないという現実がある。 従来、新人弁護士は、希望すれば弁護士事務所にいわゆる「イソ弁」(俗称・居候弁護士の意)として勤務することができた。しかし、就職難で「イソ弁」の給与が年々下がっているだけではなく、給料をもらわず先輩の弁護士事務所の軒先を借りる「ノキ弁」、自宅やアパートで弁護士登録をする「タク弁」などが出始めている。 このまま給費制が廃止されると平均320万円の負債を抱えている修習生は、別に修習資金の貸与を受けることなどを余儀なくされるので、約半数の弁護士は約600万円の負債を抱えたまま就職難にさらされる。 このような状態の中で、果たして人権擁護活動などに正面から向き合うことができるだろうか。また、裕福な家庭の子女だけが法曹を目指すようになり、弁護士の多様性が損なわれるのではないか。優秀な人材が司法の世界にそっぽを向き始めるという現象も既に現実のものとなっている。 給費制維持の問題は、ひとり修習生だけの問題ではなく、日本の司法の将来に暗い影を落としかねない問題であり、国民の権利擁護に深くかかわる問題でもあることを理解する必要がある。 今や、法曹人口、法曹養成のあり方などの諸問題を見直すべき時期にきており、給費制の問題もこれらの問題と合わせて多角的に検討されるべきである。 給費制は維持されなければならない。 なかむら・ひさお 1951年松江市生まれ。早稲田大学政経学部経済学科卒。78年弁護士登録。97年度、2004年度、10年度に島根県弁護士会会長、日弁連理事。島根県人事委員会委員長、島根大学経営協議会委員、(株)山陰合同銀行監査役。(株)山陰放送監査役。松江ロータリークラブ会長